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2006年9月19日

あしたの発想学

岡野雅行
リヨン社 850円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 有名な町工場のおやじ「岡野」さんの著書。初めインタビューを文字に起こしたのかと思った。それくらい、軽い語り口の本だから、いかなる人にも読みやすいと思う。おじさんの話を聞いているかのような気がする。

 自分に技術があれば、3K職場だとかなんとかいわれているけど、町工場の職人という人生はとても面白い。そのためには、技術を社会を自分を知らないとダメだ。そのための小言を150くらいしてやる。そいういう本である。崇高な教訓ではなく、実体験にもとずく結論で、「そりゃそうだ」という話が集められている。

 しかしだ。この人の言葉を本で学んだところで、あまり役に立たないと思う。結局、この人と同じ人生を生きる上で役に立つのであって、違う人生を歩むときには応用がきかないだろう。そもそも、これは成功者の言であって、同じようにやって失敗した人も結構いるような気がする。だから、この本は「職人の寓話」なのではないか。成功した職人とは、こういう人なのだ。
 この本は「楽しむ」に限る。勉強しようというのではない。子供がおじさんの話を聞くかのように、なるほどと、勉強になったと「うれしく」なれれば、それで良い。元気が出る。さて、おれはどやって社会を渡ってやろうか。そう思えればとてもよい本であると思う。

2006年9月18日

他人を許せないサル

正高信男
講談社ブルーバックス 780円
お勧め指数 □□□■■ (3)

 ずいぶんと急いで編集したのだな、という感がある。内容はブルーバックスで、というより新書で出版するべきエッセイ。

 だからといって内容に不足があるわけではない。むしろ論点は明快で、携帯世代では「世間もIT化した」というもの。ケータイは情報検索ツールというよりも、世間というしがらみを運ぶ媒体になってしまった、つまり、IT技術によって世間が普遍化してしまったという主張には、なるほどと頷いてしまう。言語を駆使し、論理によってコミュニケーションをとるのではなく、記号や「連絡をとったという事実」に頼ってしまうようになった、つまり、サルも使っているコミュニケーション方法へと変化してしまったぞ、と警鐘を鳴らしている。

 確かに、メールや携帯では論理を駆使すると「読んでもらえない」という結果になる。それは経験則として私も知っている。ならば、説明がおっくうになり、人にあうのも面倒になる。だから、何も言わないでもわかってくれるヤツとだけ話せばいいや。そういう方向に若い人が流れていくことは推測できる。まぁ、みんながみんなそうではないでしょうけど。

 では、「そうなんだ」と知った後で、どうしたらいいか? 携帯を消し去ることはできないし、ネット社会を自由に方向づけすることもむずかしい。だいたいにおいて、社会を思うように方向づけできたことなど歴史を振り返ってもあまりなかったような気がする。ただできそうなことは、そういう社会になるということを知っておき、先手が打てることはなにかと探すことぐらいかもしれない。

鴨川ホルモー

万城目学
産業編集センター 1200円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 物語として面白いけど、学園ものといえば学園モノといってよいでしょう、多分。タイトルが興味深い。「ホルモー」ってなんだろうか。そのあたりを万城目さんも心得ていて、この本を読ませる方向へと引きずり込んでいきます。主人公の語りで話がすすみます。一風変わった「勝負」や学園モノにつきものの恋愛記述があったりと、とっぴなところはないのですが、まぁ読んじゃう。アニメにはしやすいですね。ドラマには向かないでしょう。京都中心の話なので、市内の様子はランドマークになる場所を知っているならば、より楽しめる。

 ただ、読んで何が得られるのか、と言われると・・・。楽しい時間ということでしょうか。

2006年9月17日

ああ知らなんだこんな世界史

清水義範
毎日新聞社 1400円
お勧め指数 □□□■■ (3)

  要するに世界史に関するエッセイなのだが、視点が(1)自分が歩いた場所、(2)イスラム世界側からのものである。著者自身がこの本で書いているが、世界史=ヨーロッパ史ということではないことを主張している。王朝その他の具体的な記述はまぁよいとして、人名と年代の記述に埋もれてしまう世界の個人的な理解の仕方としては参考になる。調べて、現地であるいて体感するという勉強法の一つを読むことができる。うらやましいですね。

 でもまぁ、そうは言っても古代オリエント史、古代ローマ史を知っていればもっと楽しいですけどね。

2006年9月14日

死海のほとり

遠藤周作
新潮文庫 552円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 小説として良くできています。さすがです。
 内容は、五十代の二人の男がイスラエルを巡るというもの。二人は戦時中にキリスト教系の大学の寮友。戦時下の記憶、これまでの半生、そして、それぞれの現在を、聖書に関係する土地を巡りながら回想し、そして、老いを確認しあうようなストーリー。
 憂鬱な年代と、憂鬱な時代の重ね合わせなので、正直暗い気分になります。「夜と霧」のような、逃げ場がない状況にはならないものの、心地よい気分になるようなものではありません。まぁ、でも、冬の灰色みたな気分になるので、私はもう読まないかもしれない。

 本編とは関係ないですが、表紙の写真は印象深いです。内容は忘れても、この表紙はずっと忘れない。また、不思議な色合いで、何か起きるならば、こんな場所であるほうがふさわしいという気分がします。

2006年9月 8日

How to Use Flickr

Richard Giles
THOMSON 24.99USD
お勧め指数 □□□□■ (4)

 フリッカーのことが知りたくてマニュアルを探したのだけど、洋書しか出版されていなかった。2冊しか選択肢がなかったので、書評のよい方を購入してみた。洋書しかないアプリが気になるなど、ずいぶんと久しぶりのような気がする。

 Flickrサイトへの登録、初歩的な使い方、ツール類の紹介が読みやすく書かれている。キーとなる人やプログラマ、ユーザなどのインタビューもたくさんある。すべての人に同じ質問をしているので、人によってフリッカーのとらえ方や気に入っている場所などがいろいろあって面白い。ほとんどの人が、アクセスが簡単なこと、APIが公開されているので参加しやすいことを上げている。

 フリッカーというサイトは、言ってみれば写真をアップしてそれをタグでマークアップして世界中の人と共有するというものなのだけど、使っていると楽しい。プロっぽい写真もたくさんあるし、素人っぽいものもたくさんある。まぐれで撮れたのだろうものもある。また、写真の共有方法やグループでの遊び方など、たくさん利用用法が考えられるサイトだ。そのあたりをこの本はうまく伝えている。そもそも、フリッカーが好きな人が書いている本だから、読んでいるうちにこちらも好きになってしまうのかもしれない。

2006年9月 4日

ネバーランド

恩田陸
集英社文庫 514円
お勧め指数 □□□■■ (3)

 ほんわかした学園モノ。主人公は4人の男子高校生。進学校の寮。年末、とくに帰る必要がない、家庭の事情がある生徒が4人集まって過ごす年末の話である。恋愛でもスポーツでもホラーでもない。ある意味、とりとめのない物語である。実際の生活では大抵とりとめのないことしか起きないので、リアルといえばリアルである。
 とくに、嫌ない気分になることはないが、かといって「夜ピク」のような魅力を感じないのは主人公が全員男だからかもしれない。しかも、恩田さんが描く男子だから「そんなことはねぇだろう」と思ってしまう、ちょっと女性が描く「かわいい高校生」である。きっと素敵な人になる、と女性が考えるような生徒。だから、男子高校生でもあった私には、この高校生たちに「あ、だれだれに似ているなぁ」と思えない。私も進学校(近所では)だったが、この小説とはまったく別物だった。小説なのだから、リアルなものを求める必要はないだろうけど。

2006年9月 2日

ドミノ

恩田陸
角川文庫 552円
お勧め指数 □□□■■ (3)

 なんとも「技」のさえる小説。小説でここまで書くのは大変なことでしょう、たぶん。ミステリー作家で同じような方法を試みた人がいるのか知らないし、ましてや海外の作品を知らないのでなんともいえないのですが。でも、たぶん、この作品はスゴイのだと思います。
 東京駅に集まってくる何人か(27人だっけ?)のそれぞれに別々の背景と動機を持たせ、それぞれの人の「事情」はそれぞれ面白く、それが最後に一ヶ所に絡まってくる。言ってみればそういうもの。人はそれぞれの事情で生きているということは、現実の世界では「あったりまえ」のことです。それを時間軸が一本しかない小説で表現するのは難しく、さらにそれを読む人の頭の中で処理できるようにするには相当難しいでしょう。そもそも、大勢の人がでてきて、それぞれの話を展開したら「わかんなくなっちゃう」はずですが、それぞれ際立った面白さがあるので「ごちゃごちゃ」にはならないように出来ています。

 読んでいて楽しいのですが、でも、私が小説を読む本質的な動機に答えてくれるか、といえばそうではありません。このタイプの小説になってしまうと、TVのお笑い番組よりもはるかに知的コストがかかっているのですが、でも、結果的に用途はそれと同じなんです、私にとって。小説は、自分の周りにはない違う世界の覗く方法だと思っています。だから、評価は(3)ですね。でも、言い本であることにはかわりないです。