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2007年4月30日

1冊まるごと佐藤可士和。

pen編集部(編)
阪急コミュニケーションズ 1500円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 佐藤可士和。正直知らなかったのだけど、彼の作品は知っていたなぁ。「クリエーター系」の人って、俺様的なところがあるから好きじゃない。とくに、グラフィック・デザインの人は。プロダクト・デザインなど「質量があるものを相手にしている」人は、現実と常に向き合っているから信頼できるのだけど。ただ、書店で平済みされている本をみて、ぺらぺらとめくったらユニクロのデザインの話があって、嫁さんに「佐藤可士和って有名?」と聞いたら「有名だよ」といわれたので購入してみた。

 この人のバックボーオンはグラフィックのようだけど、ブランディング(一つのイコンから何を想起させるのかをデザインする)やコンセプトデザインが得意なことが分かった。というか、ブランディングとは何かという一端を知ることができた。すごいですね。ユニクロのニューヨーク店全体の企画などよりも、明治学院大学のブランディング、幼稚園のコンセプトデザインなど、すっごい仕事をしている。「あれ、いいやぁ」と思わせる物は単におカネを投入すればできるものではなく、背後にこういう人がいるかどうかできまるんですね。

 ロゴの威力も想像できた。コンセプトがかまれば、それをイコンに集約させるためにロゴを作る。そして、コンセプト全体のタグとして言葉のかわりにロゴを使う。それを見る人は単にマークを見るのではなく、コンセプト全体として認識している。そういうものなんですね。

 この人スゴイって、おもうところは、佐藤さんは自分で「デザイン」ができてしまうところ。美大をでているのだから、そうだろうとは思うけど。ステップワゴンのイメージ(あのカラフルな手書きのStep Wagonという文字)は、あの人が描いた。文字通り、自分で描いた。全体デザインをやる人って、いざとなれば「自分できる」というところが「非常に非常に大切」なんだけど、それができている。口だけの人ではない。そういうところに痛く感心しました。

2007年4月29日

仏教は心の科学

アルボムッレ・スマナサーラ
宝島社 1429円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 仏教は宗教ではない。何かを信じるという行為は釈迦の発想とは相いれない。気持ちの持ち方のコツを考え続け、いろいろと実践した結果の生き方、考え方、行動の仕方の手本である。そういう趣旨の内容が、具体的にまた説得力のある例で説明されている。実に言い本ですね。

 仏教って、哲学ですよね。拝めば極楽に行けるとか、法事が大切とか、よくまぁああいうナンセンスなことを今の坊さんは主張できるのかなぁと以前から不思議に思っていましたが、この本をよんで私のとらえかたは間違っていないんだなぁと再確認しました。

 結局、人生の目的ってなんだろうか? 幸せってどういう状態なんだろうか。 腹がたちイライラしたり、悔しかったり、後悔したりすのは「不幸」そのもので、できれば避けたい。そのためにはどうすればいいか。そんなときに、どう考えればいいのか、どうすれば機嫌よく過ごせるようになるのか。こんな話は誰にとっても切実な問題なんじゃないかな。その対応の一端を紹介すれば、イヤな気分になったりしたとき「あぁ、イヤな気分になっているなぁ、オレ」と意識下で自分の状態を中継するように言語的に明瞭に記述するということのようです。あるいは、人間の反応は、最初は「不善」、しばらくして「善」になるという癖があるので、思ったことをすぐに口にしない。しばらく考える。そうすると災いから逃れられる。こんな、ちょっとしたことなんですね。あるいは何故悩むのか。それは本当はどうでもよい選択肢を無理やり選択するかだとか。なるほど。本当に自分が忌ますべきことを明確に把握していたら、いちいち考えないですぐに選びとるよね。なるほど。

 仏教はあるまでも「教え」であって「宗教」ではない。キリスト教とか今のなになに仏教(言って見れば、日本の普通のお寺で分配されている仏教なのかな)のような宗教とは違う。学術とも宗教とも違う視点からの仏教を知るには是非お勧め。

2007年4月27日

ナイチンゲールの沈黙

海堂尊
宝島社 1600円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 『チーム・バチスタの栄光』の続編です。小説家としてどうなのかが問われてしまいそうな二冊目ですが、まぁまぁ合格点でしょうか。というのは、四百ページの作品を読み切れましたから。つまらなかったら途中でなげちゃう量ですが、最後まで楽しめました。ただし、ミステリーとしては難があるかもしれない。まじめなミステリー好きの人からは評価が低いかもしれませんね。

 一度はっきりと認識された小説のキャラが登場するなら、とくにとりたてて事件がなくても読んでいて面白いです。作者は基本に忠実らしく、えらく複線をはっているところもある本なので「ふーん」程度の愉快さはあります。それに、今回はしんみりするところもある。考えるところ、笑うところ、腹が立つところ、悲しい寂しいところ、全部含まれているのでエンターテイメントとしては申し分ないです。

2007年4月25日

チーム・バチスタの栄光

海堂尊
宝島社 1600円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 『このミス大賞』をとった作品。しかも、普通のお医者さんが書いた小説で、しかもこれが初めての小説だとか。びっくりしました。ミステリーの核である謎解きは、そんなにスゴイというものでもないようでうすが、でもそれが全体の質を低くするということはない。というより、そんなことどうでもいいような気になってしまう本です。

 小説では「キャラ」が立っているかどうかが大切だと聞いたことがあります。性格がはっきりと記述できていれば、読者の方が「そいつはそういうやつだから」と思ってしまうような状態ならば面白くないものはできない。知識としては知っていましたが、この小説でその実際を知りました。登場人物のキャラが立っている。だから、何気ない行動をおっていくだけのシーンでも「おもしろい」と思っちゃう。不思議な気分です。表現のがどうのこうのはどうでもいいです。

 嫁さんがサイン会へ行ったようで、この本には著者のサインがしてあります。「普通のおじさんだったよ。こういうお医者さんいるなぁ、という感じの」中年になってからデビューということも、以外にあり得るんですね。しかも現役の医師ということだから、実体験したものをベースに小説として膨らませているのでしょうか。

2007年4月24日

鹿男あおによし

万城目学
幻冬舎 1500円
お勧め指数 □□□□□ (5)

 『鴨川ホルモー』があまりにも面白かったので期待して購入。正解でした。電車のなかで読んでいて吹き出すことはありませんが、でも風景としてはこちらの方が出来がよい。いくつまでもこの心象風景の世界を維持してほしいですね。

 言ってみればファンタジーです。ベースは『ぼっちゃん』。でも内容はマキメさんの世界。決して現実味がある話の進行ではないのだけれど、なぜか魅かれます。その理由は、『ホルモー』のときと同じように話が進行する場所の描写にあるのでしょう。リアルというか、現場を良く知っているというか、「そう、確かにそこにジャスコあるよ」ということを突っ込みたくなる記述がちらほら見受けられます。これが現実の奈良の町にリアリズムがないものであれば、つまり、「別に奈良の町でなくてもいい」といえるような表現だたら、全体がファンタジーとなってとても「ぬるい」作品になってしまう。現実と想像とのコントラストをきっちりつけることが面白いのでしょう。

 もっと読みたいですね。はやく次の作品がでないものか。


2007年4月21日

医原病

近藤誠
講談社α新書 780円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 近藤先生の別の本を読んでみたところ、これもまた衝撃的な内容であった。医療は、とくに現代医学は、本当にどこまで役に立ってきたのかというデータをつかった説明を展開してくれる。なるほど、治る病気は治っているし、治らない病気は結局医療とてあやまり役に立っていないのだ。

 この本で特に注目したのは「予防注射、ワクチン」や「特効薬」と言われるものの効果である。ポリオや天然痘については、まったくの完全勝利ということだが、それ以外はどうであろうか? 結核だって、ジフテリアだって、はしかだって、対して効果が実はないのだ。ともあれ、この本の41ページの図だけは、立ち読みでいいので覗いてみる価値がある。

 要するに、医療をかいかぶるな。そういう警告である。医者や医療関係の人がそんなことを言うはずは決してない。直接当事者でない国なども同じ。大きな人口というのは、彼らから見れば肥沃な畑なのだ。まぁ、そんなネガティブなメッセージもあるようです。もちろん医療にはプラスもマイナスもあるのでしょうけど、そのあたりをちゃんと「認識」するのに良い一冊ですね。


2007年4月18日

成人病の真実

近藤誠
文春文庫 600円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 世の中おかしなやつは役人だけではないのですね! 医者って「あったまいい」と思うのが普通だけど、薬害エイズのあのじじいのように「何回でも死んでくれ」といいたくなる人が結構な確率でいるんですね。逆に、医者ってのも良識のある人とかいうテレビドラマの影響からはずれて、その辺にいる人と同じだと理解できれば「さもあらん」。そんな事実がばかばか書かれています。病気について心配していない人も知った方がいいことを知ることができますよ。

 高血圧や糖尿、コレステロールって本当に「病気なの」という問いが存在し得るということを初めて知りました。この本を通じてのメッセージですけど、「自覚症状がないものは、処置する必要なんてないんですよ」というのが原則のようです。検診をして初めて知ることができるものが、なんで大切なんですか? 脳ドックなんてのを初め「処置しなければいいのに、早期処置という触れ込みで処置すると患わなくてもいい後遺症に苦しめられるか、死んでしまうか」ということだと初めて知りました。

 がんについてが専門の先生ですからがんについての見解は非常に納得がいきます。その他、ワクチンや感染症の特効薬って意味があったのかどうかをデータで示してくれます。役人が改ざんした文章ではなくね。

2007年4月17日

グローバル経済と現代奴隷制

ケビン・ベイルズ
凱風社 2500円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 奴隷制って、現代もあるんだ。そんなかたちで。そうなんだ。なんだ、人類って決してシンポしているわけではないのか。

 絶望的な生活環境にいるだけならば奴隷とはいいませんよね。そうではなくて、基本は他人に人生を支配される、それも完璧に。そして、夢なんてそもそもなく、あっても仲間内で「長」になるくらい。それが奴隷でしょう。その状態を自らの働きによって「終わらせることができない」状態。そういったものが、グローバル経済のなかでかなり増えてきているというレポートになっています。

 結局、人口が多いと人の命の価値が下がってしまう。需要と供給なんだということです。人件費が安いから、東南アジアや南米、アフリカ、インドに工場を出す。でも、なんで人件費が安いのかといえば最悪な労働を「只」でやる人が沢山いるからです。物価が安いから、その国の人たちもそれなりに幸せなんだろう、と思いがちですが、そうではない。単に、奴隷として働いている人がいるから、燃料の炭が、レンガが只同然で手にはいり、それをもとに工場が操業でき、・・・という連鎖がある。そういうことなんです。

 人は2万年くらいは体の作りは変わっていないそうです。それなのに過去には沢山奴隷がいて、勝手な王様がいて、本の一握りの人しか「楽しんでいない」という状況があったのに、今はそうではないのだろうか。そう疑問に思っていましたが、なんてことはない変わっていないのです。ただし、それは水面下で広がっている。だれも人のダークサイドを見たくないから。それなのに、この著者はフィールドワークをやってのけます。

 安い商品が本当によいのか。ちょっと、手を止めて考えてみる。何ができるのだろうかと。考えるだけではダメなんですけどね。


2007年4月15日

須賀敦子全集 第一巻

須賀敦子
河出文庫 950円
お勧め指数 □□□□□ (5)

 須賀敦子さんの全集が文庫本で刊行されはじめた。1巻目は「ミラノ 霧の風景」と「コルシア書店の仲間たち」が中心である。両方とも文庫本で一度読んでいるのだが、一冊1000円だし、きちんと全部読んでおきたい作者のでまた購入してみました。

 須賀さんの文章はすごいのです。私は文学など学問に成りようがないと思っている人間です。音楽とおなじように文学ではなく文楽(ぶんがくと発音したい)とするべきだと思っているくらい。でも、須賀さんの文章は「文学ってあるのかも」と思わせます。表現がスゴイのです。

 表現が「例え」だと思っている人がいますよね。仰々しい飾りをわんさか文章にのせて「なになにのように」とする人。ああいうのは大嫌いです。わたし、あれが文系の人がやることだと思っていました。でも、須賀さんの表現は違いますね。何を書く、何を書かない。そして、視覚的に最小限にそえられた比喩があって、それで「ぐっとくる」文章になっています。感情が伝わってしまう。そういう文章なんです。言語能力というのは、こういう風に言葉を操れる人なんでしょう。だから、ひたすら勉強になります。私が体験もしたことない時代と国と人の行動を、もう知り合いのように感じさせるエッセイばかり。

 ちなみに、解説を池澤夏樹さんが書いていますが、この解説も感心させられます。なぜ、須賀さんの作品がしっとりとして、最後には物悲しいのかその原因が分かります。それは、自分の青春時代の仲間を、その人たちと一緒に生きた日々を数十年たって振り返るからです。時代も人も思った方向には動かない上、自分たちも歳をとっていく。だから、物語の最後はなんとなくたそがれてしまう。それをある種の感情を抱きながら読む。そういうからくりなのだという。確かに。


2007年4月12日

<つまずき>のなかの哲学

山内志朗
NHKブックス 920円
お勧め指数 □■■■■ (1)

 一般向けの哲学ってのはなにか、を考察した教養書。といっても哲学史や何が哲学科という「ガイド」本でも「入門書」でもない。知識を解説するものでもない。単に、作者が「哲学」という行為の解説を試みたものである。

 が、内容がつまらない。哲学の人はおしなべてそうなのだが、「クオリア」というものを理解してないあるいは重視していないので、どうも白けてしまう。簡単にいえば、何が大切なのか、という問いについての行動は「こうするべき」とか「であるべき」とか、いってみれば信念か論理が支えているかのような説明が必ずあるのだが、そうではないと私は思うから。何が大切なのかというのは、「そう感じたから」という、論理でも真理でも説明不可能な「感覚」あるいは「クオリア」があるからなのだ。そしてそれは、そう思う人にしか説明しても理解してもらえない。そういう考えを持っている人からみれば、クオリアがあるかなしかで決まることをいちいち御託をならべて説明して、いい気になっているような哲学者の本でしかないこの本は全くつまんないのだ。

 まぁ、でも「哲学とは、ようするに考える対象のなぞなぞなのだ」というような考え方はちょっと面白かったけど、でもそれで本一冊はやりすぎかな。


2007年4月10日

環境問題はなぜウソがまかり通るのか

武田邦彦
洋泉社 1000円
お勧め指数 □□□□□ (5)

 言い本です。でも、絶対にメジャーになることはないでしょう。なぜならば、この本を取り上げて評判にする理由がマスコミにはないからです。どんなに良い本もマーケティングがダメなら売れません。良い物が良いから売れるのというわけではないのと同じですね。

 平易に書かれた分かりやすい本です。環境問題は政府の張ったりだ。それは知っていましたが、ペットボトルの回収、あるいは、分別ゴミもそうだったとは知りませんでした。ペットボトルを回収してリサイクルするという行為は、1)実はリサイクルされていない(リサイクル業者の実体は裁断して焼却処分しているのだが、役所はその内容を無視して「リサイクルされた」とカウントしているそうです)、2)無理にリサイクルすると余計なエネルギーがかかりかえって環境に悪い(プラスティックは結局溶かして原料に近い形にしてから使うので、そうするためのエネルギー(石油)の方がそのまま作るときの石油よりも多くかかるそうですね)のどちらかだそうです。それに、ペットボトルごときをどうにかしたところで、車社会からみれば「屁」見たいなものだとか。エネルギー消費の全体枠を把握した後で、個々の要素の影響を考えれば「その行為がどれだけ大切か」が分かりますが、この本はまさにそれをやってくれます。

 基本は政治なんですね。環境ではないのか。まぁ、これが人間の社会ですから周りの人をバカにしても仕方ないですけど、私は彼らと一緒になることはしたくないですね。

2007年4月 9日

井沢式「日本史入門」講座

井沢元彦
徳間書店 1500円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 歴史を考える、歴史を学ぶってなんなのだろうか?

”あるときはこうあったのに、今はそうではない。では、だれがそれを変えたのか。これが「歴史」なのです。”

 ぐうの音もでない。なんでこういう風に教えてくれなかったのかと思う。日本に何人いるかもわからないが、その全部が(といっていいでしょう)サラリーマン教師だし、そもそも歴史なんかスキでもないだろう。ただ、子供相手に教科書読んでいるだけの人たち。そんな人がこんな発言をするはずもない。素人の人であっても、町中にいるオッサンでもいいから、こういう「疑問」から歴史を学び、現在を俯瞰できるような視点を持っている人が沢山いるといいのに。

 歴史には偶然もある。でも、井沢さんの教科書は分からない、ひょっとしたら偶然そうなったということに足しても「なるほど」という可能性を考えてく作業が示されている。普通の人から見れば、最終的な知識がどうであろうと、その過程を見るほうが断然大切である。自分で考える。その技をこの人の発言から学ぶのは面白いことだと思う。学者が自身の正当性を主張するだけ、知識をひけらかすだけのためのことに付き合っていたら何を勉強しても面白いはずない。塩野さんや井沢さんの視点って、山川のくそ教科書を読んでも身につかないですね。

 詳しくはこの本を読んでもらうとして、ちょっと面白いなぁとおもったことを紹介しますと、邪馬台。これ、やまたいと発音するのだとずっと思っていたが、じつは中国読みだと「やまだ」となるらしい。へぇ、それや「ヤマト」と同じじゃないか。なんてことはない、大和朝廷の事をいっていたのかもしれんなぁ。これも一つは視点の変更ですね。視点を変えるだけ、以前とは全くちがう世界が見えてきそう。

2007年4月 8日

乗っ取られた聖書

秦剛平
京都大学学術出版会 1890円
お勧め指数 □□□□□ (5)

 秦さんの新しい本がでたので、早速購入。しかし、このジャンルの本は一体だれが読むのだろうと頚を傾げたくなるのだが、日本語でしかも一年に1冊くらいのペースで出版してくれるのだから日本の普通の人も物好きかおおいなぁ。真剣にキリスト教を信仰している人はまず買わないだろうし、かといって巷で話題になっているわけでも、ヨーロッパのようにキリスト教文化の影響を日々濃厚にうける生活をするわけでもないのに。

 今回は「七十人訳」と言われる聖書がどのような背景で成立したのかについて解説してくれている。しかも、崇高な理念や啓示が要因にあったなどという眉唾な理由ではなく、アレキサンドリアの町でユダヤの人とギリシャの人との社会的な問題が背景にあったという「現実的な」理由を紹介してくれている。彼も大変だったんだなぁ、とにおわせてくれるので古代ローマ世界を想像するうえでいろいろ勉強になる。代替において、古代という昔の人が、しかもマジ信仰の世界の人という人たちを想像するのは不可能に近いのだが、秦さんのように「かなり現実っぽい、そして人間くさい」人たちの生活を語ってくれる人がいると、古代ローマに興味をもっているひとは大助かりですね。

 で、結論はこの本を読んでいただくとして、まぁ、結果的に歴史的に正当と考えられてきた「理由」というのは、やっぱり「ストーリー」として面白いものが選択されていることが分かった。現実というか、現実的な理由だと「しらけちゃう」のでしょう。人間ならば仕方ない。背に腹は代えられないという理由であっても、あとから崇高なしかも興味深い理由で飾り付けられ、ちょっと言い話になったものが歴史的な事実として残っていくのですね。七十人訳の成立を題材に、さらに歴史を面白いなぁと感じるようになりました。

2007年4月 6日

人生の疑問に答えます

養老孟司・太田光
NHK出版 1200円
お勧め指数 □□□■■ (3)

 軽い気持ちで購入したので、深遠な内容は期待していなかったです。読んでみても、かるーい感じのことだけだったので期待外れではないですが、かといって「買うほどの物かな」とも思いました。

 相談の内容は込み入ったものではなく、いつの時代でもあるだろう内容です。子供と意見が合わないとかダイエットがどうのこうのというような。誰でもそういう時期があるのだと思いますし、だからといって、それが対した問題ではない、ということでは解決にはならないタイプの問題。当人は真剣なものなのだから仕方がない。

 全ての悩みに言える回答なんですけど、養老さんはさすがだなというようなことを答えてくれています。「悩みは解決しない。時間がたつと、問題が問題でなくなる。すくなくとも、問題だと感じなくなる。悩みは解決するのではなく、消えてしまうのだ。」脳科学からもそう言えるんですね。そう、大体悩みなんて寝ている間は存在しないのですが、物理的にあるわけではない。だったら、解決しないでも消えてしまう可能性はある。それが時ということです。

 へぇ、と思いますが。

2007年4月 5日

欲望解剖

茂木健一郎・田中洋
幻冬舎 1200円
お勧め指数 □■■■■ (1)

 最近、茂木さんの本は外れが多いのですが、この本はどうかなぁと思って読んでみましたが、ダメでした。齋藤孝さん状態になっていますね、茂木さん。すっごく「コスト」がかかっていない本しかだしていない。明らかです。マスコミで活躍されているのはいいのですけど。

2007年4月 4日

つっこみ力

パオロ・マッツァリーノ
ちくま新書 735円
お勧め指数 □□□□□ (5)

 パオロさん、さすがっす。この人のように切れがあり「わかりやすく」社会を説明してくれる人は滅多にいません。少なくとも、私はあったことがない。本の中だから話を聞くことができるんですね。だから本が好きになります。

 さて、例によって世間に流布している「社会学的な」あるいはマスコミ等で評論家が解説しているような内容に対して、「それはちがうだろう」という説明です。全く普通の人の視点からの解説なので、「こんなことは知らんだろうなぁ」的な解説にうんざりしている人ならば感動してしまうのではないでしょうか。

 いろいろ事例があるのですけど、今回一番納得したのは「なんだかんだいっても、結局面白い話でなければ人は受け入れないのですよ」という人間の原理の説明でしょう。マスコミが中心になって広げる「おかしな」理論がありますよね。有明海の問題とか、環境問題とか。ああいうものについてどんなに「正しい、論理的な」見解を社会の人に示しても効果ないんですよ。なんだかんだいっても、「インパクト」がある、あるいは、「それって面白い」ストーリーになっている方を世間の人はとるのです。それは社会の成熟とかとは関係なく「人間ってそういうもの」っていう感じなんですね。そんな悟りのような解説がこの本に載っていまして、大変勉強になりました、私には。

 間違っているときに「間違っている」と上からの視点で指摘する、あるいは怒る。こういう態度はやめましょうよ。誤りの指摘って、それが「つっこみ」にならないならしなくていい。なぜなら、誤りを受け入れるってことは正しいことを求めている場合だけであって、世間は正しいことではなく「面白いこと」を受け入れますから、野暮なんです。つっこみを生かして、間違いを笑わせるタイミングをつくれるのならば、あるいは、それによって自分にとっておいしい場合だけ指摘すればいい。そうでもない限り、誰も得しないから。そういうスタンスを教えてくれる本です。

2007年4月 3日

夢を与える

綿矢りさ
河出書房新社 1300円
お勧め指数 □□□■■ (3)

 すっごく期待していた綿矢さんの新作ですが、私個人としてはがっかり感がありました。ただし、それは話のジャンルというか内容の方向というか後味の問題であって、完全に個人的なテーストですので、小説としての出来は「上手だよなぁ」と思うレベルです。さすがっす。

 前作からの流れを期待されて読まれた人はやっぱりがっかりする面があるかもしれません。プロットが平凡ですし。ただ、この著者は並の人間ではないので、わざとやって「綿矢路線」なるものを最初に壊しておきたかったのかな。それくらいは「おちゃのこさいさい」でしょう。

 私としては嫌いなタイプの小説なんですけど、読み終わってもふとしたときにいろいろな場面が頭に浮かぶので、本としてはスゴイと思います。

2007年4月 2日

ヒット商品を最初に買う人たち

森行生
新潮社 700円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 久々に森さんの本を見かけた。「私の視点」というWWWページを作られている方で、「マーケッティング」って面白いなぁということを実にあっさりと教えてくれる。ただし、考え方、現象のモデルを教えてくれるだけで、マニュアルを期待したらがっかりするかもしれない。

 例によって、イノベーター理論、プロダクト・コーンの話。簡単に言えば、売れる商品にはそれを買ってくれる人たちの動きに一定の法則があり、その人たちの特性を見据えればその商品がどのように受け入れられていくのかというモデルを紹介するだけの本なのだけど、概念を分かりやすく説明するための例題に「ヘルシア緑茶」などの実例をリアルに語ってくれるのが面白い。もっとも、実例はすべて「事後」のものなので、理論が当たっているのは当たり前なのだが。

 この本の内容は完全にマーケッティングなのだけど、なぜ理系研究職の私が魅かれるのかといえば、「研究だって、同じだろ」と思っているから。真実を明らかにする、という命題と殉教するタイプの研究者ではない不埒な工学系は「何が面白か」を常に探している。その際、何を問題として扱うのかという視点を探すときには、「なんだ、マーケと研究は同じじゃねぇか」と思ったので、それいらいこの人の発言には注目しているということなのだ。

 ちょっと残念なのは、この本は前作「シンプル マーケッティング」を越えていないということ。新書だからあたりまえかな。それに、モデルはすでに分かっているし、より詳しいモデルをさがしても実際のマーケッティングには関係しなから、新しい物を競って勉強する必要はないのかもしれない。