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2010年8月24日

成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ

波頭亮
ちくま新書
お勧め指数 □□□□□ (5)

不思議な本だった。
明解な論理と確かな事実を使って、日本は「成長することはない」と主張している。

なるほど。

そして、それはそういうものであって、悪いことではないと主張している。

なるほど。

論旨がはっきりしている。
横道にそれようがない。
義務教育をマスターしていれば、この人の見解には同意するだろう。

例えば、日本が今後経済成長しないという理由は単純にこう言える。
・就業人口が減ってくる。
・貯蓄傾向が明らかに下がっている。
・そうそう技術革新はおこらない。
この3点はGDP計算のベースになるが、これら全部が統計的に証明されている。
ならば、たし算とかけ算ができれば、GDPなどどうやっても増えないことがわかる。

日本は今後経済成長しないという主張の本を何冊か読んだことがある。
が、こんな簡単な方法で示せたのはこの人が初めてである。
一冊丸ごと読まなくても、冒頭にかるこの部分だけでも読めばいい。
そうすれば、何をしていも景気なんて良くならないことがはっきりとわかる。

そもそも景気が良かった過去の理由を考えてみれば、政府や人々の行動でどうなるものではなく、世界の状況が深く関わっていることがわかる。
なんでもそうだが、周りを無視してなんとかなるような状況などあまりない。

成長しないならば、成熟すればよい。
そのためにはどうすればいいか。
だれかが突出して金持ちになる必要などないではないか。
他人よりも多く持ち、安楽な生活をしたい。
そういう考え方もあるだろう。
しかしどうせ成長しないならば、とりあえず周りにいる人々がそれなりに幸せに生きていくようにすればいいのでははないか。
そういう考え方も一案だということだ。

この本の序盤で提案されていることに最初抵抗があった。
分配すること。
いわゆる「社会主義」を提案しているから。
なんでこんな古ぼけたい主張をするのだろうと。

ところが、この本の後半にあるように、成長は無理だと認識したところで、ではどういう生き方があるのだろうかという疑問に対する著者なりの回答なのだ。
社会主義のような「みんながそこそこしあわせならいいじゃん」という提案があるのだと気がついた。
この発想が突然でてきたら抵抗は当然ある。
しかし、成熟するしかない状況ならば、それも一つの解になるかもしれない。
なるほど。
そういうことならば、ありだ。

マッキンゼーの人がこんな主張するなんて、不思議な気分である。
が、問題に対する答えということならば、なるほどありだ。

2010年8月20日

明治断頭台―山田風太郎明治小説全集〈7〉

山田風太郎
ちくま文庫
お勧め指数 □□□□■ (4)

月一で放送される書評番組で推薦されていた小説で、嫁さんが絶賛していたのでつられて読んで見た。
古い小説だけど、普通に読める。
内容は十分ミステリー。
ちょっとどたばたしているところが気になる。
主要人物を除いて時代設定に無理はない。
ゲスト出演するキー・パーソンは時代の有名人で、そのあたりで小説の荒唐無稽さを中和してくれる。

幾つかの話が順をおって並んでる。
一つ一つは、その時代なりのミステリーになっている。
断頭台=ギロチンだが、その登場の仕方もそれなりに工夫されている。
へんてこなオジサンだけでは読んでいてつらいが、ちょっと魅惑的な女性を登場させることで、とりあえず読み進んでしまうという仕掛けもある。
明治という時代の雰囲気をある程度表しているのかもしれない。
ただ、司馬遼太郎の描く世界とは大分違うけれど。

この小説の凄いところは、ラストである。
うーん、と言葉にしてしまったくらいである。
でもなぁ。
 

2010年8月 4日

わかりやすく〈伝える〉技術

池上彰
講談社現代新書
お勧め指数 □□□□■ (4)

池上彰さんの本の2冊目。
分かりやすく伝えるとはどういうことか。
これについてのご自身の経験のまとめのノートような本である。
難しい理論などない。

題材は著者の経験のようだ。
なので、この本で考察された伝える技術は、プレゼンというより、現場レポートやテレビでの解説からきている。
どのように記事を書くかならば、新聞記者志望の人ならば覚えがあるだろうし参考文献もいろいろあろう。
しかしどのように現場レポートをするかは、テレビ局のしかるべき仕事についた人でないと知りようがない。
ただし、普通の人がレポーターの仕事をするわけではないが、そこから得た知見には一般性はあるだろう。

ポイントは、レポートする相手は「お茶の間」であるということ。
身を乗り出して聴こうとしている人を相手に説明するのではないこと。
それに、お茶の間の人がみな冴えた頭をもっている人でもないということ。
そういう状態でなにかを伝えるのはもっとも難しいことでもある。
相手と時間を選べないなかで、どうすれば多くの人に納得してもらえるのか。
取材した内容を短時間でインプットできるか。
その考察である。

当然、これは一般でも役に立つだろう。
それがビジネスのプレゼンにそのまま応用できるかどうかはしらないけど。
ところどころに具体的な注意がはいる。
が、一方では心構えを説くところも多い。
なるほどと思わせる部分も多いが、この本の信憑や価値といったものは、池上彰さんを信用するかどうかにかかっているような気がする。
あらゆる本がそうであるように。

 

2010年8月 2日

<わかりやすさ>の勉強法

池上彰
講談社現代新書
お勧め指数 □□□□□ (5)

池上バブルという言葉があるそうだ。
ぞくぞくと著作が出版されて、それも売れる。
特定の人に原稿執筆や書き下ろし出版が集中することはよくあるそうで、そんなときにはすごいペースで本が出版される。
が、一人でそんなに出し続けられるものではない。
内容はだんだんと粗悪になる。
品質低下は本の出来だけでなく、著者の人格も侵食しだす。
そういう怖い話。

人格については知らないが、売れる人の本はだんだん薄くなり、フォントがでかくなり、軽いつくりの本(というより雑誌?)になっていくのは本当だ。
過去そういう流れを目の当たりにしたことがある。
好きだった著者の本を次第に買わなくなってしまったことは何度か体験している。
最近では茂木バブルや勝間バブルがその例だそうで、次は池上バブルではないか。
それが池上バブルの話である。

ぼくの想像する池上さんは、一流の常識人であり、「世間から目線」をもつ数少ない知識人である。
今後ともがんばって欲しい。
だから池上バブルにはなってほしくない。

とはいえ、今現在はどんな質の本をだされているのか。
これまで読んだ本でぼくが感心したのは「そうだったのか現代史」の時代であり、あれからずいぶんと時間が経っている。
最近の状況を知りたくなったので、平済みになっていたこの本を購入した。

内容はちゃんとしている。
十分に分かりやすい。
通勤電車でこの本を読みはじめたら、あれよあれよとページをめくってしまった。
この手の普通の本を読むよりも、1.5倍の速度くらい。
最低でも1.5倍は普通の本より分かりやすいと言えそう。
決して粗製濫造ではない。
<わかりやすさ>を目指したタイトルにあるとおり、テレビ番組をみているくらい分かりやすい物言いであった。

だから逆に「へぇ」と思った。
そういう本は、今あまりないから。
経済について分かりやすく解説する本なんてない。
大抵は「おれは偉い、おまえらバカだ」的なものいい本が多いのなんの。

この本はある種のノウハウの紹介本だ。
分かりやすいとはどういうことか。
その説明の後、どういう意識で著者は勉強しているのか、どんな方法でメモを取っているのか。
そういう情報整理のコツを紹介している。
ツールに頼るのではなく、池上さんの工夫の紹介に紙面が割かれている。

人によっては面白くないかも知れない。
今ちょうど久々に論説文を書きはじめたぼくには「なるほどな、じゃぁ今書いているものに適用してみよう」というところが多々あり、いきなり実用的な意味で役立っている。

社会の出来事を知り、それが何を意味するのかを考えるには、新聞やニュースから情報を仕入れるよりない。
それをどう利用するのか。
こういう視点での教科書である。
それはそれでよい。
が、ぼくはそもそも、マスコミ自体に信用をもっておらず、池上さんがどう説明してくれようとも、新聞は読まない。
その意味ではもうひとつ役に立たない本ではある。
それはぼくの特殊事情だけど。

これならば別の本も読んで見たい。