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ローマ人の物語〈8〉危機と克服

塩野七生
新潮社 2940円
★★★★★

 ネロが自死に追い込まれたあとの混乱。ガルバ、オトー、ベテリウスといったどさくさ皇帝と混乱を収拾したヴェスパシアヌス、ティトス、ドゥミティアヌスの物語。

 どさくさに皇帝になった3人をみていると、皇帝という統率者ができない人がその地位につくとどうなるのかという具体例になっていることがわかる。「やる必要があることは一切やらず、やらなくていいことばかりする。」そう、著者は評価している。
 軍隊でのたたき上げの人間であっても、人の集団を率いてそれなりの効果を上げている人は、皇帝という仕事は可能なのだ。資質があるかどうかは結果論でしかない。ヴェスパシアヌスをみていると、幸運の女神は人が運んでくるのだとよく分かる。

 ティトスとドゥミティアヌスは兄弟。おそらく、資質でいえば同等。ただし、育った環境が決定的にちがう。ティトスは軍人の父のもとで、弟は「いずれ皇帝になる人」として育った。人の機微が分からないのか、軍事もローマ人の性質も読み切っていない。ドゥミティアヌスがやったことは、ティベリウスの文書類から勉強したこともあり、間違ってはない。合理的なことをやった。カリグラとは違う。混乱時の3人の皇帝とも本質的に違い、ローマにとっては大切なことであった。だけど、人間社会の勉強が足りなかった。人については、本で学ぶには眼界がある。感覚として、理解することができないまま、合理的な行動をとり、結果的に人から排除される。

 歴史的事実を記憶することなどよりも、「なぜだろうか?」の考察を読者に問いかけてくる塩野の本を読める幸せは、私にとって何事にも変えがたい体験。

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