自壊する帝国
ニュースを見て愉快に感じる外務省関係の報道は全くない。一市民の大衆から見て「うまい事やるなぁ」という仕事の面の意味での評価ではなく、ろくでもない役人気質がらみの事件への感想があるだけだ。要するに「なんでこんなやつら必要なんだろうか」というごく不通の市民がもつ感想である。 しかし、佐藤優だけが飛び抜けているのかどうかはわからないが、この本に書かれている行動が「外交官の仕事」であるとすれば、なるほどたいした仕事であり外務省の本来の仕事内容を多いに尊敬してしまう。司馬遼太郎の明治初期のマリア・ルーズ号事件の際の日本の外務卿であった副島種臣の話をどこかで聞いたことがある。私のもつ「外交官」とはかくあるものだ。でも実際の外務省の人は、報道されているように、官房機密費で馬を買ったり高級レストランで毎日昼飯を食べたりすることが目的なんだろう。平然と使途不明金を使ってもバレる仕組みがなければ人はダメな方向へ落ちていくに決まっている。なぜ、機密費なんてものがあるのか、その歯止めとなる仕組みないのだろうかと訝るのもごく不通の市民がもつ疑問である。 外交官の仕事がこの本にある佐藤優のとった行動を指し示すならば、なるほど経費というか機密費というものが外交にといって必須であることが理解できる。決済書にいちいち理由を残せないものある。だから、機密として組織長が決裁する仕組みが必要なのだ。外交官の仕事はつまるところ「交渉」であり、そのための「情報獲得」と「現状分析(見立て?)」と「戦略・戦術立案」および「実行」が実務である。そして、その対象は全て「人」である。人から物を聞き出すには相手に合わせる必要がある。情報持っている人が地位のある人ならばそれ相応に会う場所で交渉や下相談をする必要がある。そもそも、交渉以前に仲良くなり、信頼関係を築く必要がある。ちょっと考えれば、実に気が遠くなる話だ。それにはかなりの額の費用がかかる。仮に地位がない人でであっても、その人が有力な情報源ならば資金的な意味を含めての援助をする必要がある。金がなくては話の発端も作れない。要するに、相手が自分を金銭的な意味も含めて、人がもつ知識や思想などを信頼してもらえるように行動することが仕事のキーポイントになる。費用捻出もそうだが、そもそも「人」に興味がある人でないと勤まらないだろう。「自分がどう扱われるか」にしか興味がない人にはそもそも無理なのだ。試験上がりの人では不可能な仕事ということだ。 西洋社会では「キリスト教」についての理解がどれだけあるかで、どれだけ社会の中に溶け込めるか決まる。宗教が忌避されていたソ連であってもそうだったようだ。佐藤優は同志社で神学を修めている。それだけでも西洋社会の内部へ入るパスポートをもっているようなもので、逸材だろう。また、本人の動機も継続して神学的な研究をしたいことにあるから、現地でも行動が積極的になる。東大では外国事情を、モスクワ大学では宗教について教鞭をとっていたくらいのレベルで見識がある。それだけでも食べていける能力がある。余談だが、そういう能力は公共の仕事の上層部に付くための条件にしたほうがいいのだろう。でないと、天下りのことを30代から考えるような人しか役所にいなくなるわけだから。 もっとも、この本は「主催者側発表」であることを忘れてはいけない。いたるところに「薮の中」がある。あるいは、自分の希望が現実と沿うような記述や解釈があるはずだ。その可能性は割り引く必要がある。しかし、そうはっていってもこの本は「外交とは、ロシアとは、国が崩壊するときとは」について考えるのによい教材である。普通の人である私はこの本で十分満足だ。佐藤優のような外交官がもっと出て欲しいですよ、ほんと。 |