一瞬の風になれ
佐藤多佳子 もう一度高校生活を体験できる。しかも、立派なやつを。 三冊の厚さを感じさせないけれど、読んだあとにため息がでた。面白かった。まぶしかった。でも、疲れた。なんだかもう一度高校生をやり直した気分がする。女性作家だから現実離れした(ある意味女性の理想の)高校男子がでてくるのは仕方がない。言い面も悪い面もあるのだけど、それは小説だからよしとしよう。「好きだ嫌いだ」という話もこの世代には絶対に付きものだけど、この本は上手に扱っている。その流れに重きを置くと高校生より上の年代の人で離れる人が結構でてくるだろうけれど、この本は綿矢りさの『蹴りたい背中 女性が高校男子の心理的側面を扱うのは難しいだろう。自分が男子だったとしても、内面は人それぞれだし、そもそもみな自分しか知らないのだし。テーマとして「成長」を強く扱う意図はないのか、主人公の考え方が時間を経て子供っぽいものから大人びていくというベタな展開はなかった。そうではなく、成長ぶりを行動(あるいは、クセ)で表現している。昔はそんなことやったよな、みたいな。去年、一昨年の同じ時期のイベントでの自分を振り返る形で「成長した」ことを読者に実感させる。この作品が映像されれば、主人公の顔つきや体つきが変わってくるところだ。 で、テーマは何か。なんなのだろう。走ること、成長できたこと、仲間と協力して目標に向かって努力すること、自分の今いる位置は過去から未来へと色々な人が受け持って行くだろうこと(人生はリレー、みたいなもの)。道徳の教科書のようなものばかりだけど、こんな小説にのせてみると「そりゃいいなぁ」という気分になり、自らそういう目標のもとでがんばってみようという気になる。まさに高校生のような気分になれる。これが「元気のもと」。これから青春する人には憧れの生き方だろうけど、「青春は遠くなりにけり」の中年にとっても「あの頃に戻りたい」よりも「あの頃の気分になって、もっと一日一日がんばってみよう」という気分にさせる。給料が上がってもこういう気分にはなれないだろうから、お金では買えないものを本を読む事で得たことになる。 単行本で3巻セットって無謀な売り方だよなぁと思ったのだが、出版社のもくろみは当たった。
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