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国家の崩壊

佐藤優
にんげん出版 1600円
お勧め指数 □□□□■ (4)

 ロングインタビューと研究会での講演を整理し、ソ連崩壊の様子を佐藤優の視点から再構成したもの。聞き手に答える形での話だから自ら何を語るかの外枠を規定していない。だから、話の運び方は聞き手の考えにも影響されているところがあるだろう。また、本書で紹介されるトピックは別の本でも紹介されているものもある。けれどそれを読むのもまたよい。別の本で登場したキャラについての言及にほっとする(もっと詳しいことを別の本で読んだぞ、という安心感)ので、暗い話であるのだけど全体を通して読むのを楽しくしてくれる。

 本書を読んでいて、へぇと思った細かい知識をいくつかあげる。


 それから、チェチェンには、独特の「血の報復の掟」があるんです。チェチェンでは、子供が生まれると、男の子だけですが、七代前までの名前を全部暗記させるんです。それから、どこで生まれてどこで死んだのかということも全部暗記させるんです。そして、もし祖先の七代まえまでのうちに殺された人がいたら、誰に殺されたかも同時に暗記させるんです。それで、殺した奴の七代前までの報復をしなければいけないのです。殺したほうの家の男系七代に渡ってそれは続くんです。そういう「血の報復の掟」があります。これは今でも厳しく守られています。仇討ちの旅に出なければならないんです。そうじゃないと一族が許してくれない。

 なるほどチェチェンは怖いところだ。数年前、チェチェン人が立てこもった劇場にロシア軍が突入した事件の映像を思い出した。「なんでロシア軍は覆面しているのだろうか?」と疑問に思ったのだが、これが原因か。顔から身元がわれると七代に渡って報復を恐れないといけないから覆面をしていいたのかもしれない。こういう実際問題教科書に載せられない知識が国際ニュースをみるときに手がかりを与えてくれる。
 となると、チェチェンでは殺人事件はすくないだろう。リスクが大きすぎる。交通事故やケガでもおなじ掟が適用されるのか。よくわからない。

 あるいはこんなもの。


 ブレジネフ時代を通じてずっとあった「明日は今日より良くなるかどうか分からないけれど、悪くなる事は絶対ない」という関係、それを信じていい状態が崩れたこと、明日は悪くなるかもしれない、いやきっと悪くなるに違いない、という不安こそが、この物不足パニックの背景にあったと思うのです。

 ブレジネフ時代といえば行列の映像を思い出すが、ゴルバチョフ時代はそもそも別の意味で物がなくなった。ロシアではウォッカ、タバコ、じゃがいも、といったものに政府が手を付けてはいけないそうだ。これが出回らなくると確実に暴動がおきるそうだ。ゴルバチョフはそれをやってしまったので、人々の不満は高まるばかりになったことが崩壊の原因の一つだったということだ。
 これって、人が「幸福ってなんだ」を考えるよすがになる。どんな状態でも明日はよくなる、と思えれば結構やっていけるもの。逆にどんなに恵まれた環境にいても明日は良くならないと思ってしまったら幸せとはほど遠いものになる。

 それはさておき、「聞き手」の発想には「もう一つ」を感じた。「リーダーがアホだと国は崩壊する」などとまとめてとして言っている。このての発言には全く意味がないと知らないのだろうか。なぜなら、リーダーがアホでも滅びなかった国はたくさんあるし、そもそもこの手の発言は「後知恵」だから。過ぎた後なら「なぜ気付かなかったのか」といくらでもいえる。聞き手は全くそう考えていないようだ。この手の本を読むと、聞き手と佐藤優には越えられない壁があるように感じる。自分はこの聞き手のような「頭のいい人の尻馬に乗ろうとして馬脚を現してしまう発言」はしたくないとつくづく反省する。


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