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疲れすぎて眠れぬ夜のために

内田樹
角川文庫 514円
お勧め指数 □□□■■ (3)

 これまで何度となく「迷って」きた。内田樹とするべきか、内田樹さんとするべきか、内田樹先生とするべきなのか。いわゆる敬称というものとして何を使えばいいのだろうか。知り合いでも師弟関係でもないし、ぼくとはおおよそ無縁の偉い大学の先生だから、ニュートンとか坂本龍馬というような人と同じでいいやと思い、つまり、歴史上の人物と同じ扱いという意味で敬称略でいいやということにしようと今思った。これからはもう悩まないようにしよう。

 さて、この本は内田樹ブログから引っ張って何かの原稿に使ったエッセイをまとめている。この人の本は、きっちりしたものもスゴイが、たんなるブログでもスゴイ。面白い、愉快というのと同時に、なるほどなぁ、おれは今まで何にも考えていなかった部類のバカな人間なんだなぁとしみじみ思わせてくれる。打ちのめされるというよりも、勉強しちゃたという気分にさせてくれる。エッセイなのでとくに「コア」となる話を展開しているわけではない。毎回読みきり。長さはまちまち。

 この一文が心に残った。

 「人間の心身の力には限界がない」というのは現代人の陥りがちな誤解であるということを先ほど申し上げましたが、そのような誤解のうちもっとも危険なものの一つは「不愉快な人間関係に耐える能力」を人間的能力の一つだと思い込むことです。
 これは、若い人に限らず、性別を問わず、あらゆる年代の人に見ることとができる傾向です。
 でも、「不愉快な人間関係に耐える」というのは、ぼくに言わせれば、むしろ有害であり、命を知事メル方向にしか作用しません。

 不愉快な関係に耐えたとしても、それはその人の感覚を摩耗させやがえて自身が不愉快な人になるだけで。がんばると悪い方向にしか行かないということだ。

 全く同意した。ぼくもそう思っていた。嫌な人間には経緯をもって離れていろ、ということを大前研一の本で読んだ以来。もう何年もなる。内田樹は「挨拶だけして、離れていろ」と言っている。同じだ。ちょっとうれしかった。

 嫌なことをずっとやらせていることが「修業」だと思う人がいる。人の適性はスゴイから、嫌な人といることに対応できるようになるのだが、それは「不快感」が自分の内部に沈み込んでしまったからのだろう。そして、それは、自分自身がそういう嫌な人になっているのだ。当然、そういう人はそれを他人に教養する。要するに、ゾンビということだ。

 人間関係のくだらなさは、それが「自然現象」でも「歴史的必然」でもないことだ。そんなのあてもなくても、社会においてはどうでもよいことだ。自分が思っている程効果がない。逃げるべき。

 もうひとつ、目からうろがあった。

 世代についての誤解のもっとも分かりやすい例は「戦後世代」ということばです。「戦後世代」というと、ふつうは「団塊の世代」のことを連想します。昭和二十年から二十五年生まれくらいの人々が戦後社会の基調を決定したのだ、というふうに。(略)
 戦後の復興を担ったのは、明治生まれの人たちです。
 だってそうでしょう。ぼくの父は明治四十五年生まれですが、その父は敗戦の年にようやく三十二歳です。まだ白面の青年です。ということは、敗戦直後において政治経済や文化的な活動を実質的に牽引していたのは、明治二十年代、三十年代生まれの人々だったということです。(略)
 みんなが忘れているのは、戦後の奇跡的復興をまずになったのは、漱石が日本の未来を託したあの「坊ちゃん」や「三四郎」の世代だということです。

 坊ちゃんたちに漱石がどういう思いを託したのかは、内田樹の別のエッセイに紹介されているのだが、それよりも重要なことは「団塊の世代」の物語って、意外にそこが浅いということ。すっかり騙されていた。冷静に考えれば当たり前なんだけど、自分たちがやってもいないことを自分の功績のようにいう人は一杯いるどころは「普通そうする」ということに注意しなければならない。偉そうなことは大抵ウソだと思ったほうが、勘違いをしなくてすむといえそうだ。

 内田樹のエッセイは、こういう驚きがたくさんある。原稿依頼がないのにずっとブログに書きためている理由は、個人的な興味を言葉にして自分で見えるようにするためなのだろう。議論する相手無しで考察するためには文章に書いて、自分で読むことなんだろうな。

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