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こんな日本でよかったね

内田樹
バジリコ 1600円
お勧め指数 □□□□■ (4)
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 内田樹のブログを編集者がピックアップ、再構成したエッセイ本である。この人の著者にはこのタイプのものが多い。本を書いてやろうという直接の企画がない状態で書きためたものが本になっていき、それがベストセラーになっていくというすごさである。確かに並のエッセイよりは面白い。

誰もが「被害者」の立場を先取りしようと、必至に競い合っている。だが、被害者の立場からの出来事の記述は、そうでない人間の記述よりも正確であり、被害者の立場からの提示されるソリューションは、そうでない人間が提示するソリューションより合理的であるという判断には論理的には根拠がない。

 たとえばこの引用を読むと、一気にいろんなことの解決ができてしまう。というか、これまで感情が湧いてきてうまく考えられなかった問題にどう対処したらいいかがわかってくる。それは、殺人事件だったり誘拐だったりといろいろある。そのどれもが、上の「認識」を持つことで考える道筋ができてくるのだ。

 大学三年生相手の就職セミナーでリクルートの営業はまず最初に「みなさんは自分の適性に合った仕事を探し当てることがもっとも重要です」と獅子吼する。  その瞬間に若者たちは「この広い世界のどこかに自分の適性にぴったり合ったたった一つの仕事が存在する」という信憑を刷り込まれる。  もちろん、そのような仕事は存在しない。  だから、「自分の適正にぴったり合ったたった一つの仕事」を探して若者たちは終わりのない長い放浪の旅にでることになる。

 なるほど、とひざをうつ。リクルートって会社のトンデモ性がわかるわけだ。さすが、創業者が御縄になってもなんともないだけはある。

 自分にぴったりを探すというモデルが仕事として成功すれば、次は転職であり、結婚相手であり、式場であり・・・といくらでもビジネスモデルを応用できて設けることができる。

 社会って、そういうことで儲ける人がたくさんいるわけである。もちろんお客さんは、長い目で見ると「カモ」になってしまっているのだ。

 社保庁の乱脈ぶりが伝えられたとき、「これほど腐敗した官僚たちに食い物にされながら、それでもまだ年金支給の原資が残っていた」ことに私は感動した。社保庁にだって、まじめに働いていた人がそれだけいたということである。(略)  社会システムというのは五人に一人くらい「働き者」がいれば十分回るように設計されているのである。それ以上の「働き者」を必要とするシステムは設計の仕方が間違っているのである。

 こういう見方をはっきりと提示してくれる。なるほど、善人が善意で年金運用などするはずがないのだ、ということをよく考えれば「あたりまえ」なことが起きたのだ。そもそも、相手は「役人」なのだ。5人が5人まじめな人間なはずはない。普通の会社だって5人に一人なのだから、50人に一人くらいはちゃんとした人がいるはずで、その人たちがかろうじて年金なんだぞ、ということを理解してくれるているのだけなのだ。悲しい現実だが、そういうものだ。

 ばら色の世界にぼくは住んでいるのではない。それを思い出させてくれる。普通のエッセイだし、楽しいことが書かれているわけではないのだけど、知恵を手にした気がして感動する。


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