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ハプスブルクの旗のもとに

池内紀
NTT出版
お勧め指数 □□□■■ (3)
購入店 八重洲ブックセンター

 ハプスブルク。もう、さっぱり。学生時代から世界史は基本的に敬遠してきたので、ヨーロッパ史についてはピンと来ない。がために、オトナになってから自分で面白く読めた本の中で扱われた時代以外は、全くの闇の中なのだ。興味があれば自然と単語が頭にへばりつくし、関連する街の映像も心に残る。だから、女の人だとヨーロッパに旅行へ行く人が多い(と思っている)だろうから、この辺りの歴史についてはぼくよりよく知っているだろう。それに、ヨーロッパ王朝のきらびやかなイメージは、色々な機会で映像を目にするので、そういうものを通して親近感を持つ女性が多くてもおかしくない。ぼくにはそういう機会はない。
 ハプスブルク家と音楽の歴史についての年表を作って欲しい。そう、ぼくのチェロの先生に頼まれた。はい、と安請け合いしたはいいが、さてどうやって勉強するか。おそらくは、バッハだのモーツァルトだのシューベルトだのの音楽が生まれ得た背景と世界史との関係を人の系譜でたどれるようにすればいいのだろう。が、それをどうしてよいやら。
 八重洲ブックセンターに行って、世界史の本棚の前に立ち、塩野七生や司馬遼太郎のようなエッセイや小説など「面白い」本がないかと探って見た。が、全くない。著者が大学の先生であればその本は100%つまらない。不思議なことに、つまらないのに3000円とか4000円とかする。だから嫌なのだ。はぁ、というため息ととともに、新書のコーナへ移動する。
 新書コーナーにはそれらしき本がたくさんある。最近発刊された新書は本当に玉石混合なので、自分がよく知らない分野のものを手にするときには注意することにしている。一方で、老舗出版社のしかも発刊が古いものは大丈夫であろう。岩波とか講談社とかそれらしきものを手にしてみる。
 しかし、新品の新書を書店で買うのは少し勇気がいる。なぜなら、ブックオフへ行けば100円で買えるかもしれないから。そうは言ってもまず読まない事には。ちょっと悩んだ末に新書のようなこの本を買った。著者は信頼できるし、文章も内容もハプスブルクへ踏み込むには敷居が低そうだし、なによりブックオフでは売っていないだろう筋の本だから。そういう自分のせこさが気になる。岩波あたりは探せば100円のものがあるだろうから、即効読む必要がない新書は書店で買えない貧乏性になっている。

 この本はいわゆる旅行記である。ハプスブルクの歴史において事件があったり、関係者の出身地だったりする、どちらかといえば田舎の場所を淡々と訪ねたときのエッセイである。ぼくはこの著者の訳でカフカを読んでいるので、文章そのものにも取っつきやすい。旅をするときの視点もぼくには親しみやすい。ただし、読んだからといってぼくの本来の目的を果たす事にはならなかった。オーストリア帝国というものが栄え、そして消えていき、突然に近いかたちで消えてしまったために帝国のあったところの人々も文化も、スパッと切り替えができないままずるずると現在に至る。そういう、土地なんだなということしか分からなかった。しかし、まぁ、ハプスブルクの最初の入門としてはこれでいいかな。

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