池田清彦の自伝。池田清彦の本は大好きだけど、自伝がでるほど立派な人だとは知らなかった。おみそれしましたと思いながら読んだ。少年記から現在まで、一貫して昆虫少年であることとはどんなことなのかよくわかった。興味があるんだ、ということをうまいこと自分の職業に結びつける過程に感心すると同時に、そういう生き方はありえるのかと驚いた。こういう話はもっといろんな人に知らせて欲しい。昆虫が好きで、蝶やかみきり虫が好きで、それで立派な人になれる。ぼく自信も今はラッキーな職場にいるけれど、それでも池田清彦ほど浮世離れしてはいない。職業として池田清彦的なものが世の中にありえるのだと中学高校生に知ってもらうといいのに。リーマンになるしかないような指導しかない学校に生きていたら、こんなことが可能だと夢にも思わないで挫折する人が多いはずだから。
もうひとつ以外だったこと。それは、池田清彦が東大ではないこと。養老孟司と一緒に本を書いたりすることが多いから、茂木健一郎や内田樹などのように「東大倶楽部」の人なのかと思っていたが、そうではないみたい。それでいて自由な世界で生きている。なんだ、そうだったのかと元気がでる。東大倶楽部の連中にはずいぶんと嫌な思いをさせれてきたので、池田清彦の過去を知ってずいぶんと気分が晴れた。
この本で気に入ったところ面白いところは、学生時代のエピソード。池田清彦が大学生の頃の写真がのっている。へんてこなヒゲをはやしていたりして妖しい、でも面白い。こんな風貌で昆虫捕りばかりやる学生がいたのか。すごい。そしてそのまま職業でもやる。すごい。野原でこんなオッサンと出会ったら後づさりする。どんなに迫力があったことだろう。
そんな学生時代に結婚された奥さんはなかなかよさそうな人で、よくこんなオッサンと結婚したなぁと思う。生命科学とか医療ならば普通の人から見ても「立派な」感じはするけけど、昆虫に明け暮れる毎日の人というのは、ぼくのような人間ですら「どうなんだろうな」とちょっと躊躇してしまうのだが。
自伝というのは、この本のように後続のひとを鼓舞するようなものがいい。偉い人の自伝はともすると「おれは偉い」的なものになってしまいがち。あるいは客観視しすぎて「正確なのだろうけど、おもしろくないよ」となる。どっちも、それを読んで後続の人が鼓舞されることはない。ところがこの本は不惑のぼくが読んでも「おれもこういう研究者になりたいなぁ」と思わせるものがある。魅力的な人の生き方は、その人と同じくらい魅力的なものなんだ。そなことがわかった。
ここで一つ思いついた。今からでも遅くないだろう。これから生きていく上でいろいろな選択肢があるだろうし、いろいろなことを考えたり思ったりするだろうが、自伝を書いたら面白いだろうなぁというエピソードになるように生きて見たら結果的に面白いんじゃないかな。そんな感想をもった。