同じ大学へ通った3人の登場人物それぞれの視点から語る大学生時代。なんてことはない、恩田陸さんのご自身の体験をもとにした妄想小説なんだろう。とすれば登場人物の一人は女性で、舞台となる大学は早稲田でしょう。東京からさほど遠くない高校というのは水戸第一高校。
他の男性二人は高校時代の友人なのか。多分違う。これも全部恩田陸さん。別の人格部分をキャラクター化したもので、3人が考えていたことは全部恩田陸さんが考えていたことなんだろうなと思った。
そう予想してWikiで確認すると、大学時代の活動から察するに、たぶん正解。まったくさえない大学生活を送ったようなに書かれているが、これが大学生活への感想なのだろうか。
小説家になる人は子供の頃から文章を書いているものなだと思っていたが、そうでもないようだ。大学時代の恩田陸さんと思われる女性は、小説家希望とすら公言していないし、作品を書いて新人賞に応募するということもしていない。単に文学部の学生さん。
アルバイト先の飲みやのお客に、「文学部ならば小説家になるのでしょうね、何か書いているのですか?」と聞かれ、「いえ、まだです」と即答するシーンがある。この場面は事実とは少し違うのだろうけど、深層心理としては小説家になりたいと思っており、それがぽっこり表面に浮かび出た瞬間なのだろう。あ、そうだったんだ、やっぱり。そう自覚した瞬間だからよく憶えている。恩田陸さんが誕生した瞬間があるとしたら、こんな場面だったのだろう。
読んでいて不快になるようなところはない。でも、ミステリーでもないし、恋愛的なドキドキもないし、悲しさもない。エンターテイメント的なところもない。じゃ、なに? そう言いたくなる。普通ならばつまらないものにだけど、全部読ませてしまうのが恩田陸さんの実力。
登場人物の大学生活には、あまりドラマがない。もっとも、普通の人はそうであるはずで、この本を読んでいるほぼすべての人はそういう大学生活だったであろうと思う。だから、すんなりと読めてしまうのかもしれない。そうそう、期待したわりには何も起きないでおわっちゃうんだよね大学生って。そういうある種の後悔のような共感がよいのかもしれない。青春時期の思い出は、歳をとってくるとどんなものでも「よかったもの」になるものだから。
では、この本を評価するのか。ぼくはしない。この本はいよいよネタが詰まったのか、あるいは大学生時代を回想してしまったからなのか、大きな動機は見当たらないまま書いていたのだろう。きっと、なぜ私は作家になったのだろうかと、大学時代の生活を思い出していくうちに、この作品が成立した。そいうころだろう。