父と息子の往復書簡
金にならないことを一生懸命やっているあいだは、人は堕落しない。 この本は父と息子の往復書簡である。20年くらい前、ビジネスマン父がどうのこうのいう往復書簡の翻訳本がベストセラーになったことがあって、それがなんだかフィクションぽく、あまり良くなかった嫌な思い出がある。それ以来往復書簡本は読んでいない。この本の存在は知っていたのだが、敬遠した。ブログで注目したのも何かの縁だと思い、古本で買って読んで見た。 書簡にはニューヨークやアメリカの出来事、現地で知りあった人などについてを父親に報告しているようなもので、それ自体が興味深いというわけではない。返信として父親が評論をしたり、疑問を投げ掛けたりする。山本七平の書く文章は、息子への手紙であっても、山本七平の評論であって、ため息がでてしまうくらい明晰である。なんでそんな考え方、分析ができるのだろうかと。一方、息子さんは父親にたいして父親に「尊敬」の念をもって接していることが読み取れ、やり取りが父と子のものである。少し前の親子はみなこんな感じだったのだろうか。ぼくとは違う立派な息子である。 なによりもこの本が親子のやり取りの理想型ということで終わらない凄いところは、山本七平さんが途中で病に倒れてしまうところである。親子で意見の違いが露呈し、息子が父親を批判するような挑戦的な手紙を書いたくだりがある。父である山本七平さんがどう対応するのかを息を飲みながらページをめくったら、病気で入院してしまったのだ。手紙からうけたショックなどというものが原因ではなく、単に老齢からくるガンによるものであったらしい。ガンはとにかく痛さとの格闘であり、痛がりつづける闘病についての息子さんの手紙を読むにつけ辛い気持ちになる。良くなったり悪くなったりしながらもやがて父は回復し、往復書簡の続きを書けるまでになる。 別に感動して泣きたいわけではないし、それを本に求めてなどいない。しかし、感動して泣いてしまった本は、一生かかってつくるぼくの本のリストには無条件で加わる。本っていいなぁと本心から思えるかどうかは、そのリストがどれだけ長いかだろうなと思う。まだ入手していない山本七平さんの本をちまちまと集めようかな。 |
