発売直後から売り切れ、普通の書店ではいまだに店頭に並ぶことがないくらいに売れている小説である。新潮社の情報管制というマーケッティング方法が成功したために、普段本を読まない人まで買っているのだ。村上春樹さんなの長編新刊ならば、なにもしなくったってベストセラーになるのは自明なのに、あえて売る側が目論んだ「嫌な感じ」の売り方。出版社はビジネスありきだからな、と少し残念だ。売れている理由のいくぶんかは映画になる『ノルウェーの森』効果かも知れないが。
1000ページの小説など読むのは久しぶりである。通勤電車の中で読んでいたが、一週間かかってしまった。内容についてはネタバレするので書かないが、ミステリーというかサスペンスなのだろうか。明るいタッチの『ダンス・ダンス・ダンス』的なものではなく、かといって初期の頃の乾いた寂寥感満載の話でもなく、どちらかといえば『ノルウェーの森』の部類に入るのではないか。まぁ、小説であり、フィクションなのだから何が書かれていてもかまわないのだけど、通勤電車の中や晴れた土曜日の朝日を受けて輝いているベランダの花を見ながら読むような本では決してないだろう。
読み終わった後、ドッと疲れがでた。これ、本当に日本人の100人に一人が読むようなお話なんだろうか、と疑問に思う。ぼくの意見は、もっとほかにあるだろう、だ。
小説は、何かの事件を下敷きにして作家の思索を物語として表現したもの、という考え方がある。それはそれで、そういうこともあるだろうと同意する。しかしだからといって、この本が実際の事件を下敷きにしているとか、作家が言わんとしていることはその事件と関係があるようには思えない。
この小説を読んで良かったなと思ったことがある。それは、本編の流れと関係がないだろうし、気に留めない人も多いかもしれない言葉である。それは人の習性の根深いところにある事実であり、この本でのように明確な言葉によって語られるのをこれまでに目にしたことがなかった。
それは、人は自分の存在価値を高めるような社会の見方を「事実」として受けれ入るものだ、というような内容である。
人々が必要としているのは、自分の存在を少しでも意味深く感じさせてくれるような、美しく心地よいお話なんだ。
Aという説が、彼なり彼女なりの存在を意味深く見せてくれるなら、それは彼らにとって真実だし、Bという説が、彼なり彼女なりの存在を非力で矮小なものに見せるものであれば、それは偽物ということになる。とてもはっきりしている。もしBという説が真実だと主張するものがいたら、人々はおそらくその人々を恨み、黙殺し、ある場合には攻撃することだろう。論理が通っているとか実証可能だとか、そんなことは彼らにとって何の意味も持たない。
なるほど、そうか。これだけのことなのだが、今までよくわからなかったことや自分の行動についてまで一気に理解できてしまう補助線だと思う。この言葉を知ることができたので、この本を読んだかいがあった。
ベストセラーとして売れる本はつねに「今の自分は本当の自分ではない、ぼくはもっと価値のある人間で、ぼくこそがもっと幸せになるべきなんだ」ということを伝える話である。子供の間で人気がでるのはこのタイプの話である。ハリーポッターからガンダムまで、全部この類である。
それがなぜだろうか、も理解できる。ついでに古代から紛争の元になっている宗教についても理解できてしまう。人の世界を理解するための素晴らしい補助線をぼくは得たのだ。
この小説で印象にのこったのはこの言葉であり、それ以外の主題はテーマについてはとくにピント来なかった。ぼくが感心した言葉は、果たしてこの本の中においてどの程度の重要どを占めるものなのか、著者の意図を聞いて見たい気がする。まぁおそらく、あまり重要ではないのかもしれない。
社会ではこの本の読み方なるものがゾクゾクと発表されているが、そんなもんあんまり意味がないのではないかと思う。なぜなら、これって小説であって思索を広めようとしているようなものではないだろうから。正解はないのに、成果を探っても仕方がない。TV番組でマイケルジャクソンさんの死因を解説しているようなものだ。
こんなことを言うと文科系の人からはバカ野郎呼ばわりされるかもしれない。が、小説として成立しており、人によっては面白いと絶賛される内容であるが、だからと言ってそれ以上のものは含んでいないのだから(悪と戦うとか、父親からひどい目にあった子供たちだとか)、あれこれ無理やり解説する必要なんてないだろう。読んで面白けりゃそれでいい。
書店では下巻のみが大量に並んでいることがある。つまりは、流行にのるために上巻だけ買う人が多いということだ。想像だが、上巻だけしか読まないのだとすれば、一体この本は何ナノだろうかと頭を抱えるのではないか。ちょっと心配になる。これが文学なのかと思ったら、そういう人は実にお気の毒なものだ。じゃぁ、下巻の最後まで読んだからといって、何かが良くなるわけではないのだけど。
事前情報は知りたくななったので、1Q84の書評については全く読んでいない。だけど、一体皆さん何を評論しているのだろうかと興味がでる。