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ウィーン

森本哲郎
文藝春秋
お勧め指数 □□□□■ (4)
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 ハプスブルグについて調べる必要があり、これまで何冊か関連の本を読んでみたが、これといってしっくりきたものはなかった。かろうじて加藤雅彦さんの著作が気に入ったくらい。さてどうしようと試案していたら、そういえば自宅に森本哲郎さんの『ウィーン』があったっけと思い出し、まだ読んでない本がつまれているコーナーの下の方から引き抜いた。ウィーンという都市自体にさほど興味はないが、森本哲郎さんの著作だからということで以前購入した本だ。ウィーンはマルクス・アウレリウスが没した場所であるし、そもそも古代ローマがつくった都市。ローマ史にも関係しているし、ちょっと勉強してみるかという気分で本書をめくってみた。

 この本はウィーンの観光案内ではない。ショッピングや博物館、絵になる場所が記載されているわけではない。まったくの森本哲郎本である。街を歩きながら、この街の歴史と地理を題材に思索。哲学、心理学、そしてパプスルブルグと戦争と。どの部分を読んでも森本哲郎さんの本なので、見知らぬ街を歩いたような気分になってしまった。

 興味深い話があった。ウィーンの哲学者ヴィトゲンシュタインとアドルフヒットラーの対比。両者は同時代の人であり、同時期にこの街で生きていた。ヴィトゲンシュタインはこの街の資産家の生まれ、ヒットラーはウィーンに近いリンツ出身で、若い頃にウィーンに来ている。両者ともに世界に大きな影響を与えた。ヴィトゲンシュタインは哲学という分野において、ヒットラーは戦争という分野において。この両者と同列に扱った例が他にどの程度あるのか知らないが、普通の人が興味深く読み通せる文章ということならば森本哲郎さんくらいなものだろう。人の世の不思議を堪能できる一編である。

 この本には森本哲郎さんが撮影した街の風景がいくつか掲載されている。プロの写真ではないが、森本哲郎さんの目からみたウィーンをぼくも見ることができる。印象深いのはウィーンのカフェ。広々とした店内にきちっとした身なりの給仕さんが立ち働いている。なるほどこれがウィーンの雰囲気なのか。この本の思索はこういう店内でコーヒーを飲みながら、タバコをくゆらせながら生まれたものなのか。森本哲郎さんの頭には歴史も哲学も文学も入っている。ぼくもこんな場所で思索してみたいなぁと思う。作家の恩田陸さんもそういう期待を持って南米を回ったみたが、全くダメだったみたいだ。当然僕も無理だろう。とはいえ、無理だとわかっていても、いつかそんなことができればいい。今からでもいいから勉強しているのである。中年になったぼくの夢は、あと十年したら森本哲郎さんのような思索が街の喫茶店できるようになること。そうなればお金はあろうがなかろうが一生楽しんでいけるはずだ。

 まだ何冊か読んでいない森本本がある。大事に読んでいこう。